比喩っていうのは、意味性を浮き彫りにするための落差であると。p24
優れたパーカッショニストは、一番大事な音は叩かない。p36
古代の祭司みたいな感じで、トランプは人々の無意識を煽り立てるコツを心得ているんだと思う。そしてそこではツイッターみたいな、パーソン・トゥ・パーソンのデバイスが強力な武器になっている。そういう意味では彼は、その論理や語彙はかなり反知性的だけど、そのぶん人々が地下に抱えている部分をとても戦略的に巧みに掬っている。
論理的な世界、家の喩えで言うと一階部分の世界がそれなりの力を発揮している間は抑え込まれているけど、一階の論理が力を失ってくると、地下の部分が地上に噴き上げてくる。もちろんそのすべてが「悪しき物語」であるとは言えないけど、「善き物語」「重層的な物語」よりは「悪しき物語」「単純な物語」の方が、人々の本音により強く訴えかけることは間違いないと思います。p95
僕が「古代的なスペース」ということでいつも思い浮かべるのは、洞窟の奥でストーリーテリングしている語り部です。
コンピュータの前に座っていても、古代、あるいは原始時代の、そういった洞窟の中の集合的無意識みたいなものとじかにつながっていると、僕は常に感じています。だから、みんな待ってるんだから、一日十枚はきちんと書こうぜ、みたいな気持ちはすごくある。で、自分の前で聞き耳を立てている人たちの顔を見ている限り、自分は決して間違った物語を語っていないという確信は持てます。そういうのは顔を見ればわかるんです。p98
目の前にいる人に向かってまず語りかける。だから、いつも言ってることだけど、とにかくわかりやすい言葉、読みやすい言葉で小説を書こう。できるだけわかりやすい言葉で、できるだけわかりにくいことを話そうと。スルメみたいに何度も何度も噛み直せて、噛み直すたびに味がちょっとずつ違ってくるような物語を書きたいと。でも、それを支えている文章自体はどこまでも読みやすく、素直なものを使いたいと。p99
リンカーンが言っているように、ものすごくたくさんの人間を一時的に欺くことはできるし、少ない数の人間を長く欺くこともできる。しかしたくさんの人間を長く欺くことはできない。それが物語の基本原則だと僕は信じています。だからヒトラーだって、結局は十年少しか権力を持ち続けられなかった。麻原だって十年も続かなかったですよね。とにかく「善き物語」と「悪しき物語」を峻別していくのは、多くの場合、時間の役目なんです。p101
どうして読者がついてきてくれるかわかりますか?
それはね、僕が小説を書き、読者がそれを読んでくれる。それが今のところ、信用取引として成り立っているからです。これまで僕が四十年近く小説を書いてきて、決して読者を悪いようにはしなかったから。p133
例えば占いをする人がいますよね。そういう人たちがもともとある種の特別な能力を持っているというのは、多分間違いないところだと思うんです。でもそれを職業にして、誰かが相談に来て答えなくちゃいけないときに、メッセージが全く降りてこないと商売にならないですよね。そこで何が問題かというと、それが自発的なものじゃなくなる場合があるということです。いつもいつも雷がうまく落ちてくるわけじゃないから。そしてそういうちょっとしたごまかしみたいなことをやっているうちに、それなりの「営業」のテクニックができてくる。でも小説家というのは、締め切りさえ作らなければ、自発的に好きなように小説を書いたり書かなかったりできるわけです。そうでしょう?自分で「雷受け」をコントロールすることができる。そこが職業的占い師、霊能者と、小説家との根本的な違いじゃないかと思うけど。p163
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