音楽の変わる形、変わらない価値

音楽CDが売れなくなって久しい。 

僕も以前は、今流行っている曲を知るためにテレビやラジオや雑誌のランキング情報をよく気にしてチェックしてたし、この音楽は聞かなきゃなと思った曲は、好き嫌いでなく、(職業柄か)むしろ義務感で買っていた。

でも今やAWAやSpotifyで垂れ流しで聞いている。それでも昔から好きなアーティストだと、パッケージそのものが欲しいから、新譜はアマゾンで買っているし、初めて知ったミュージシャンで、かなり気になるとiTunesでダウンロードで購入しますし、CDショップで買いたい、とはもちろん思っているけど、実際家の近くにはもう、CDショップ自体が無いのだ。 


これはあくまで僕の場合ですが、こんな風にだいぶみなさんも音楽との関わり方って変わって来ているんだと思います。

ということは、それはリスナー側だけでなく、ミュージシャン側だって変わってきているのではないでしょうか。

 

⚫︎ライブツアーの価値の変化 

新しいアルバムを作ると、ミュージシャンはライブツアーを開始します。

それは、ライブが新曲の発表会でもあり、新譜を売るためにツアーを行って全国の皆さんへお披露目するからです。ということは、そのライブツアーは、新譜が売れる前提で、開催されています。
ところが、こんな風に新譜が売れなくなると、ライブツアーをする意味自体が変わってきます。むしろ、そのライブに来たお客さんが、楽しめることが第一優先で、なんなら、毎回ライブで演奏するのは、盛り上がる過去の代表曲ですし、それを例えば各地各地でアレンジも毎回変われば、いわゆる僕みたいな追っかけは、いっそのこといろんな場所で何回もライブを見ようってことにもなります。

以前は新譜を売るためにライブを行っていたけど、むしろ今はライブを行うきっかけとして、新譜を発表している、と言っても過言ではありません。
つまり、ライブ自体を行うことが、これからのミュージシャンの創作活動のメインとなっていくってことを意味しているのでしょう。 

この秋、僕が大好きなロックバンド“ムーンライダーズ”のツアーを追っかけています。 

今年活動40周年の彼らは、活動休止だったのを休止して、全国ツアーを行っています。

そこに同行してメンバーの方とお話ししている際、僕は聞いてみました。 

「今回の久々のツアーはどんな感じですか?」 

するとボーカルの鈴木慶一さんはこう答えました。 

「何が一番違うって、新しいアルバムを作らないってことかな」 

つまり、新しいアルバムの発表会として今回ツアーをやっているわけでなく、40周年を記念してライブツアーをやっているということなのです。 

僕は続けて聞いてみました。 

「すると、何が違うんですか?」 

「新しい曲を演奏しなくていいから、プレッシャーが減って、ライブが楽しいんだよね」 

ようするに、新譜発表でツアーを行うということは、新曲を披露しなくてはならない。それは、毎回ミュージシャンにとっても結構大変な作業なのだと。そして今回それが無いってことは、今まで慣れ親しんだ代表曲を、リラックスして演奏できるし、むしろ毎回毎回アレンジをその都度変えて、ライブ自体を楽しめているというのです。

実際、僕ら観客も、そんなライブはとても楽しい。
自分の知っている聞きなれた曲が、アレンジ違いで聞けたり、ボーカルが変わって聞けたりと、合唱だってコールアンドレスポンスだってできちゃうし、むしろ何回もライブに足を運ぶ理由ができるのです。
つまり、アルバムというパッケージとしての音楽から解放されて、その場その場でのエンタメとしての音楽を、自らがその瞬間に楽しむというふうに音楽の楽しみ方が変化しているのです。 

ライブは毎回毎回が勝負、という意味では作品を毎回毎回、その瞬間で作り上げているんだとも慶一さんはおっしゃっていました。パッケージとして流通される音楽を作ることがメインの創作活動だったのが、ライブで演奏すること自体が、音楽の創作活動の今やメインになっていくのかもしれません。 

そして、あるベテランミュージシャンは、「もうライブで新しい曲はやらない、今までの曲をどう演奏するかを、ライブでやりたい」ともおっしゃっていました。

 

⚫︎アルバムを再創作するアジカン 

大好きなロックバンド“アジアンカンフージェネレーション”が11月に出す新譜アルバムは、なんと彼らが2004年に発表して、大ヒットしたアルバム「ソルファ」の再演奏版なのです。こんな再発売の形式、かなり珍しい。 

リミックスとかリマスタリングとかじゃなく、もう一回アレンジし直して演奏し直して録音しているといいます。それは当時20代後半のメンバーたちが、演奏がまだ未熟だったり、アレンジが荒削りだったり、制作時間が短くてやりきれなかったところを、12年経って今の自分たちでやり直したいと思ったからだったと。
実際3月に先行でシングル発売された「Re:Re」は、12年前の原曲と比べて、すごくアレンジが進化しているし、かっこいい。いや、12年前も勿論いい曲だけど、ものすごく洗練されているのです。 


そんなふうにアルバムを再創作しちゃうってのは、毎回違うアレンジでライブで音楽を楽しもう、ってこととすごく共通点を感じます。もっとシンプルに音楽を演奏しよう、楽しもうって原点回帰になっている気がするのです。 

音楽にとって、新曲が売れる売れないや、ランキングなんて、もともと関係なかったのです。音楽配信サービスやラジオやテレビやYouTubeで聞いてみて、あ、いい曲だな!と思えば、もっと聴きたくなるし、その曲を奏でるミュージシャンに興味を持つ。そしてライブに足を運ぶ。家でも聞きたければ、その時はCDでアルバムを買ってもいいし、またライブに行ってアレンジ違いをたのしんで、時にミュージシャンのコールにレスポンスしながら、大合唱すればよいのです。 


これはすべてのビジネスでも言えることだと思います。新しいモノを作って、売れる売れないとかを競うのではなく、自分たちの中に蓄えている過去の産物を、どのようにこれからその場であたらしく生かしていくということが、表現者・生産者にとってこれからの鍵になるのではないだろうか? 

今までの外側のビジネスモデルが変わったからって、そんなことで中身のコンテンツは死なないのです。いいモノは時間を越えても価値がある。

むしろこれからは、既存のビジネスモデルを越えて、コンテンツ自体を直接どう楽しむのかという時代がやってきているのだと思うのです。


角田陽一郎 Kakuta Yoichiro Official Site [DIVERSE]

バラエティプロデューサー/文化資源学研究者(東大D2)/ 著書:小説『AP』『仕事人生あんちょこ辞典』『最速で身につく世界史/日本史』『天才になる方法』『読書をプロデュース』『人生が変わるすごい地理』『出世のススメ』『運の技術』『究極の人間関係分析学カテゴライズド』他/映画「げんげ」監督/水道橋博士のメルマ旬報/週プレ連載中/メルマガDIVERSE

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